号外 退職給付会計基準の強制適用が延期
企業会計基準委員会(ASBJ)は、2011年8月、企業の従業員に対する年金の積立不足分を発生時に負債に計上すると定めた退職給付会計基準の強制適用時期を1年間延期することを決定した。それにより、適用は早くても2013年3月期末からということになる。
もともとこの基準の改正は、国際的な基準の整合性を保つために検討されている事項であり、2011年6月に公表された国際財務報告基準(IFRS)の「IAS第19号 従業員給付」に明記され、また、米国では既に適用されている。
ここで問題になっている「年金の積立不足」とは、日本基準でいうところの過去勤務債務や数理計算上の差異の未認識部分のことになる。現在の会計基準では、退職給付水準の変更で退職給付債務が増減したり、割引率の変更や年金資産の実際運用収益と期待運用収益との差異が発生した場合、その全部を一括して負債に計上するのではなく、一部に関してのみ毎年定期的に負債を計上する方法が規定されている。つまり、その一部に関しては、貸借対照表には表れていない「未認識の」負債である(注記には記載されている)。今回延期された基準によると、この未認識の負債も貸借対照表に記載すべきであり、この一部に関しても一括で負債に計上すべきという事である。
この基準によると、未認識の数理計算上の差異及び未認識の過去勤務債務については、負債(退職給付引当金)を全額計上するとともに、以下のように、一括して「その他の包括利益」を計上することになる。
その他の包括利益 xxx / 退職給付引当金 xxx
この積立不足の金額は、企業によっては相当の金額になっているため、多くの企業から異論が相次いでいる。対応にコストがかかることや、決算書の自己資本が目減りし、配当の判断に影響があるといった意見である。
これに応じるように、ASBJでは現在、負債計上に一定の猶予期間を設けることや配当原資を定める決算書では当面負債を計上しない、などの方向で議論しているとのこと。
影響が大きい事項であるため、企業の状況とIFRSとの整合性のバランスをうまく取るような解決法に期待したい。
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