企業会計基準委員会の第211回・第212回議事において、四半期
報告の簡素化の検討が具体化してきた。特にキャッシュ・フロー(以
下、「CF」とする。)計算書については、第1四半期・第3四半期の
作成を省略することも検討されている。
第211回では、作成者(開示会社)の立場から、CF計算書作成省
略の主張がなされた。作成者の負担軽減という趣旨は理解できるが、
一方で投資家ニーズに関する主張は客観性に乏しい。
投資家(アナリスト)の立場からは、CF情報の継続開示を要望す
る主張がなされた。企業財務の季節変動や資金調達にリスクを抱
える企業に対する評価のため、という情報ニーズは理解できるが、
CF計算書全体を必要としているわけではないようにも伺える。
続く第212回では、作成者・投資家双方の主張の調和を図るため、
非資金項目(減価償却費・引当金)等の開示を充実させるという方
向で案が提示された。
第212回に示された方向性は、「投資家」側でキャッシュ・フロー
計算書を作成するための情報開示を充実させる、という意味である
と考えられる。細部については今後の検討で変更になる可能性が
あるが、いずれにしても、四半期報告の簡素化の流れは間違いなさ
そうである。
2010年8月17日、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、公開草案「リース」を公表し、同年10月15日に企業会計基準委員会(ASBJ)は当公開草案の日本語訳を公表した。公開草案では現行のIAS第17号「リース会計」を大幅に改訂しており、今回はその概要について紹介する。
公開草案ではリースの会計処理の考え方に『使用権モデル』の採用を提案している。これにより借手及び貸手の会計処理が大幅に変更されることになる。
借手はファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類が廃止され、オペレーティング・リースをリース契約時にリース資産・リース負債として認識することになる。
貸手は原資産に伴うリスク又は便益に対するエクスポージャーを留保するか否かに応じて会計処理が異なる。重要なリスク又は便益を留保している場合には履行義務アプローチ(原資産の認識を継続し、さらにリース料受取債権とリース負債を認識する。これは現行のオペレーティング・リースをより厳格に処理したものと考えられる。)を適用し、留保していない場合には認識中止アプローチ(現行のファイナンス・リースと同様の処理)を適用することになる。
この公開草案の公表により、また日本の会計基準の改訂も検討されるであろうから今後も注目していく必要がある。
平成22年3月より、「非上場会社の会計基準に関する懇談会」が
数回にわたって行われ、8月30日に「非上場会社の会計基準に関
する懇談会 報告書」として公表されている。
会計基準の国際化は、世界規模でグローバルスタンダードの構築
が進められている。我が国でも、企業の経済・会計のグローバル化
を推し進めるため、日本の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)と
のコンバージェンスの継続・加速が進められている。
しかし、非上場会社では、こうした上場会社のニーズと異なってい
ることから、上場会社と同様に国際的なコンバージェンスが進められ
ている会計基準を適用すべきか検討が必要となっている。「非上場
会社の会計基準に関する懇談会」では、こうした非上場会社の実態
や特性を踏まえた会計基準のあり方について、幅広く検討された。
この報告書では、「中小企業の会計に関する指針」について概説
されている。「中小企業の会計に関する指針」は、中小企業が会計
の質の向上を図るために公表された指針であり、今後の非上場企
業が適用できる会計基準としての一つの方向性を示している。
平成22年の税制改正により、貸付事業用宅地に該当し50%の
評価減を受けるためには、事業承継、所有及び事業の継続の3要
件を満たす必要がある。しかし、事情によっては、相続開始時から
申告期限の間に事業承継人が確定しないことがある。このような場
合、貸付事業用宅地の特例の適用を受けることができるか。
国税当局の見解によれば、事業承継人が確定していない場合で
も、相続税の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出
し、3年以内に分割されれば、貸付事業用宅地の特例の適用を受け
ることができるという事である。
当該ケースに該当する方は、留意が必要である。
平成22年度改正により、平成22年10月1日以後解散した100%子会社の欠損金を親会社が引継ぐことが可能になり、欠損金の繰越控除を適用できるようになった。子会社の解散日は子会社の残余財産が確定した日を指し、欠損金の繰越控除を適用できるのは残余財産が確定した日の翌日の属している事業年度以降からである。
しかし、解散子会社の欠損金を親会社の欠損金として繰越控除を適用できるようになったが、従来のように子会社株式の消滅損を損金計上することができなくなったということに留意する必要がある。
平成22年10月12日、大阪証券取引所の新ジャスダック市場が
始動した。
会社としてのジャスダックは、既に4月の合併で大阪証券取引所
に吸収され消滅していたが、その後、市場としての旧ジャスダックは
大阪証券所が運営していた。今回は市場としてのジャスダックが、
大阪証券取引所の新興市場であるヘラクレスと統合されたもの。
低迷する証券市場の活性化につながることが期待されていたが、
初日の売買は低迷した模様。今後に期待したいところである。
日本公認会計士協会は、平成22年5月27日に国際会計基準審
議会(IASB)から公表された公開草案「その他の包括利益の項目
の表示(IAS第1号の修正案)」に対するコメントをまとめ、平成22年
9月30日に提出した。
「『包括利益計算書』から『純損益及びその他の包括利益計算書』
への表題変更」や「その他の包括利益の項目で、その後の認識の
中止の際にリサイクルされるものとリサイクルされないものの区分表
示」などについてコメントしている。
日本では平成22年6月30日に企業会計基準第25号「包括利益
の表示に関する会計基準」公表されており、今後公表されるであろ
うIAS第1号の修正版との影響などに注視していきたい。
平成22年7月30日、法務省は、企業会計基準委員会による「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、会計基準)の公表に伴い、会社計算規則の一部を改正する省令案を公表し、施行にあたって広く意見を求めている。この会計計算規則は、会社法で企業に作成が義務づけられている計算書類の内容などについて、法務省令案として規定しているものである。
法務省から公表された改正案では、従来「評価・換算差額等」と表示していた項目を「評価・換算差額等」又は「その他の包括利益累計額」のいずれかの項目で表示することを認めるものとしている。一方で、会計基準では、「その他の包括利益累計額」で表示することとされており、選択適用を認めていない。
この点、会計基準と法務省令で温度差があるようである。零細な中小企業にも、法務省令に基づいた計算書類の作成義務があることを鑑みれば、法務省令案は、新基準に対応しきれない企業への配慮を残しているとも言える。しかしながら、会計基準と法務省令の相違は、実務上の観点からも統一されていることが望ましく同法務省令の施行に向け、調整も期待されている。
8月3日の記事で、タックスヘイブン税制に関して、トリガー税率と保有割合の見直しを取り扱った。今回は、特定外国子会社等に該当した場合の適用除外規定の改正を取り扱う。
タックスヘイブン税制の適用除外基準のうち、事業基準と非関連者基準について見直しが行われた。事業基準に関して、これまで株式等の保有は適用除外とはならなかったが、統括会社が保有する被統括会社の株式等については除外されることとなった。
また、非関連者基準に関して、卸売業を主とする統括会社とその被統括会社間の取引については、関連者取引としないものとされた。これにより事業持株会社や物流統括会社がタックスヘイブン税制の対象外となり、海外進出が活発になることが予想される。当該改正は、外国子会社の平成22年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。
現在、関係省庁主導で企業統治(コーポレート・ガバナンス)の検討が継続されている。
法務省の「法制審議会会社法制部会」は学者を中心に構成され法改正を前提にしているのに対し、金融庁の「コーポレート・ガバナンス連絡会議」は実務家を中心に構成され、意見交換という形をとっている。
両者の議論の目的は多少異なるが、両者とも鋭い現状分析がなされている。企業統治をより深く理解するためにも、「監督機能の強化」等の最終的な結論のみならず、現在行われている議論の過程の確認をお勧めしたい。