平成25年5月16日、企業会計基準員会は無形資産に係る会計基準の検討を行った。
無形資産に関しては、昨年の議論で検討課題を、企業結合により把握される無形資産、個別に取得する仕掛研究開発の2つに決め、調査を行ってきた。
①企業結合により把握される無形資産に関する意見
経営者が何を意図して買収を行ったが明確になる、といった積極的な意見に対し、実体のない資産が計上される恐れもあり、積極的に無形資産を識別・評価する基準の設定は避けるべきとの意見があった。現行の日本の基準では、無形資産の識別方法が不明確であることから基準の設定により、何らか方向性を示すことも期待されている。
②個別に取得する仕掛研究開発
IFRS適用企業との比較可能性が高まる等の意見に対して、現行の日本基準では様々な不整合が出ること、また製薬会社に特有の論点であって、日本基準を改正する緊急性に乏しいとの意見があった。
①は継続検討課題となり、②は他の関連する規定の処理などと合わせて整理する、ということでその日は終了し、前回から議論は進まなかった。それぞれの意見にメリット、デメリットがあり、議論は今後も続くと考えられ、最終の結論はまだまだ先になると思われる。
企業会計基準委員会は、企業結合に関する会計基準の改正案の意見募集を行い、平成25年4月25日の第263回企業会計基準委員会にて内容の報告を行った。
企業結合の各論点に関して規定の明確化を望む声が多数あった。各論点のコメントの概要は以下のとおりである。
①支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動
個別財務諸表上の会計処理について、非支配株主から自社の株式のみを対価として追加取得する子会社株式の取得原価は、当該子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定するという点について再検討すべきだ。
②当期純利益の表示
公開草案の提案を支持する意見があったが、非支配株主に帰属する利益を含めて当期純利益として表示することには反対であるという意見があり、慎重に決定する必要がある。
③取得関連費用
企業結合における取得関連費用について、発生した事業年度の費用として処理する公開草案の提案に賛成するという意見が複数あった。
④暫定的な会計処理
企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い、取得原価の配分額に重要な見直しがなされた場合、見直しの内容及び金額の注記は不要とすべきという意見があった。
当初計画されていたのれん、支配の喪失、全部のれん方式については、改正が見送られたが、審議継続を求める意見があったようだ。
審議が順調に進めば、今年の夏にも改正基準が公表される見込みとなっている。
企業の事業再生を図る場合、遊休化している資産を売却したり、不要な支出を抑えるなどして、経営資源を有効活用するための措置を講じることになるが、リストラ策の中でも重要なものの一つが「整理解雇」である。
整理解雇では、円滑な事業再生という経済政策や企業の方針と、経済的弱者である労働者を保護する労働法規定が衝突する。
もっとも、解雇により常に労働者が不利益を被るわけではなく、一部の労働者を解雇することで、他の多くの労働者の雇用が守られるような場合には、解雇にも積極的な理由が認められる。
このため、整理解雇は、厳格な要件の下では認められるべきものである。
整理解雇についてよく言われるのは、4要件を満たす必要がある、というものである。
これは、法令の規定に基づくものではなく、判例により形成されたもので、①解雇の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の妥当性、がその内容である。
4要件と言われることが多いため、4つの条件の全てを満たす必要があるという印象を受けがちであるが、実は必ずしも全てを満たす必要はない。4点は満たすものではなく考慮すべきものであるということで、専門書では「4要素」という表現もされている。
また、整理解雇法理による保護は、現に雇用されている労働者にのみ及ぶものではない。
例えば、採用内定が出された段階の、労働契約締結前の者も保護の対象となりうる。労働契約締結前であっても、現に雇用されている労働者同様、経済的弱者として労働法により保護されるべき立場にあるためである。
なお、整理解雇は、労使間の訴訟に発展し、損害賠償が生じる可能性もあるため、会計・監査上は、偶発債務や引当金の検討が必要になる可能性もある。
平成25年3月29日、金融庁は、平成25年3月期以降の「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項」等を公表した。
主な要旨は以下のとおりである。
1.新たに適用となる開示制度・会計基準等はない。
2.平成25年4月1日以後開始する事業年度(翌事業年度)から「退職給付に関する会計基準」を適用する会社については、「未適用の会計基準等に関する注記」を、重要性の乏しいものを除いて記載する必要がある。
3.最近の課徴金事案及び自主訂正事案を踏まえた留意事項
ア.無形固定資産の減損について
最近の課徴金事案においては、特にソフトウェアやのれん等の無形固定資産についての減損不足が指摘されている。
イ.貸倒引当金等の引当金の計上
最近の課徴金事案、自主訂正事案においては、貸倒引当金等の引当金の計上不足となっている例も多く認められる。
ウ.連結子会社等における会計処理について
最近の課徴金事案、自主訂正事案の特徴の1つとして、発行会社の連結子会社等における不適切な会計処理が発覚したことにより、有価証券報告書を訂正する事例が増加している。
連結子会社等における会計処理の留意事項は、某大手光学機器・電子機器メーカーの粉飾決算の影響によるものと思われる。不正に対する監督が、厳しくなっているので、コーポレートガバナンスには要注意である。
平成25年3月29日、第261回企業会計基準委員会が開催され、新たに検討されるテーマの提案などが行われた。
今回は、「実務対応報告第18号(連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い)の見直し」が提案され、新たに検討されることになった。
のれんの償却などのいわゆる修正5項目は、在外子会社が国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準(US-GAAP)を適用していても修正が要求される項目であった。
しかし、この取扱いが適用されて数年経過し、両基準とも改正され、一方の日本基準も改正が行われたことで、また新たに差異が生じたものもあり、それらを反映するために見直しを行うというのが今回の提案の趣旨である。
IFRS第3号「企業結合」やIAS第27号「連結財務諸表」を初めとして、10項目は新たに差異が生じたものとして検討されている。
今後も最新の動向をキャッチアップして、自社の会計への影響も検討されたい。
不正リスク対応基準の制度化に向け、関連の法整備が進められている。
平成25年3月13日に、企業会計審議会第34回監査部会が開催され、不正リスク対応基準、及び、その他の検討課題として有価証券報告書等の提出期限の承認についても審議された。
監査法人による監査で不正等による虚偽表示が識別されたが、追加的な監査が終了しないため、有価証券報告書を提出できない場合などが有価証券報告書の提出期限延長のやむを得ない事情の1つとして列挙される見通しである。
会社側の対応としては、不正等が判明した場合、追加される監査の範囲や終了時期などを監査人と協議した上で再提出期限を設定し、財務局の承認を受ける形になるようだ。
今回は、平成25年3月期決算の留意事項のうち、いくつかの留意事項を紹介する。
①過年度遡及適用等
有価証券報告書での「表示する財務諸表のうち最も古い期間」は前期となるが、会社法では、単年度開示のため、「表示する財務諸表のうち最も古い期間」は当期となり、修正を反映させる期間が異なることに留意が必要である。
②税制改正に伴う減価償却
平成24年4月1日以後取得の減価償却資産について、250%定率法から200%定率法に改正され、200%定率法に変更した場合には、その影響額を注記することとなる。
なお、来3月期決算では、退職給付に関する会計基準や連結の範囲(連結財務諸表に関する会計基準)など、一部改正された基準の適用が予定されている。
日本公認会計士協会では、企業会計基準委員会から平成24年5月17日に公表された企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」について検討を行った。
この度、一応の検討を終えたとのことであり、監査・保証実務委員会研究報告「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」として公表した。
年金資産の多様な運用に関するリスクに応じて、より深度ある監査手続が求められている。研究報告の中では、年金資産の監査手続にあたっての留意点が記載されているが、監査人にとっても、企業側にとっても影響があるのが、年金資産の内訳開示である。
年金資産の主な内訳として、株式や債権など種類ごとでの割合もしくは金額を注記することになる。
また、(注)として、株式や債券について、上場か非上場か、国内か海外かの構成割合も記載することとなる。
なお、年金資産の内訳開示は平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末から必要となる。
日本公認会計士協会は1月29日、「監査基準委員会報告書900『監査人の交代』の改正について」(公開草案)を公表した。
本ページで以前に紹介した、不正リスク対応基準とも関連する、監査人による不正対応をより充実させるための改正である。
今回の改正にも言えることであるが、監査人の交代に関する規定は、改正の度に内容が増え、より具体的になっている。最近の規定に比べると、昔は一般的な規定しか設けておらず、簡素であった。
ところで、監査人の交代が問題になる場合の多くは、不正絡みであろう。
前任監査人にしてみれば、不正は知らなかったことにして、辞任したい。不正を看過してきた責任は後任監査人に押しつけてしまいたいと考える者も出てこないとも限らない。その場合、後任監査人にしてみれば、不十分な引継により、ババを引かされる形になる。後で不正が発覚した場合、最も非難され、責任追及されるのは後任監査人になる。
また、重要情報が引き継がれなかった場合、最悪の場合は「言った」「聞いていない」の水掛け論になり、責任の所在が不明確になるという問題も生じかねない。
これらは極端な例であるが、監査人間の引継の重要性はお分かり頂けるかと思う。これから不正事例の分析をされるような方は参考とされたい。
平成25年1月11日、企業会計基準委員会より、「企業結合に関する会計基準(案)」などが公表された。
これは、国際会計基準とのコンバージェンスを図るための会計基準等の改正となる。
特に、企業結合の考え方には、以下の2つの考え方があり、日本基準と国際会計基準の違いの一つになっていた。
・改正前の日本基準のように親会社株主を中心に考える「親会社説」という考え方
・国際会計基準のように、親会社以外の株主を含めた株主全体を中心に考える「経済的単一体説」という考え方
今回の改正は、国際会計基準のコンバージェンスを図るため、日本の会計基準が、国際会計基準が採用する「経済的単一体説」の考え方を取り入れたものになる。
主な改正点は、以下のとおり。
・「少数株主持分」を「非支配持分」と改める。
・「少数株主損益調整前当期純利益」を「当期純利益」と改める。
・子会社株式の追加取得及び支配が継続する子会社株式の一部売却、子会社の時価発行増資等、従来損益取引としていた取引を資本取引とする。
・取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用とし、その取得原価に含めなかった金額は注記する。