市場価格のない株式(特に子会社株式)の減損処理についての考察
2023.05.22
皆様、お初にお目にかかります。
監査法人アリアの萩原と申します。
今回は、有価証券の評価のうち、市場価格のない株式(特に子会社株式)の減損処理についての考察をテーマにブログを執筆させていただきました。
是非最後までお読みいただき、理解を深めていただけると幸いでございます。
市場価格のない株式等については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければならないとされている(金融商品会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品会計基準」)第21項、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」)第92項)。
したがって、減損処理の前提として、実質価額を算定する必要があるが、金融商品実務指針第92項において、通常は、この1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額が当該株式の実質価額であると規定されている。なお、ここで「通常は」と前置きしているのは、同実務指針同項でさらに言及しているとおり、会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価される場合もあるからである。
そのことを裏付けるように、「金融商品会計に関するQ&A」Q33のAでは、会社の超過収益力や経営権等を反映して、財務諸表から得られる1株当たり純資産額に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得することがあり、この場合には、株式取得後において超過収益力等が減少したために実質価額が大幅に低下することがあり得ることから、このような場合には、たとえ発行会社の財政状態の悪化がないとしても、将来の期間にわたってその状態が続くと予想され、超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならないと回答している。
ポイントは下線の部分であり、発行会社の財政状態の悪化がなくとも減損処理をしなければならないケースがあると言っている。
要するに、通常は、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは減損処理しなければならないが、会社の超過収益力等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価されるケースでは、たとえ発行会社の財政状態の悪化がなくても、超過収益力等の減少が将来の期間にわたって継続すると予想され、もはや超過収益力が見込めない状況である場合には、減損処理をしなければならないとされるのである。
以上から、市場価格のない株式の減損処理を検討する場合には、実質価額として1株当たり純資産額を基礎とした金額が想定される会社の株式(以下、「通常のケース」)と会社の超過収益力等を反映して会社の1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として想定される会社の株式(以下、「超過収益力等のケース」)とは、明確に場合分けする必要性に留意しなければならない。
また、金融商品実務指針第92項では、市場価格のない株式の実質価額について、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められる。例えば、子会社等の株式については、実質価額が著しく低下したとしても、事業計画等を入手して回復可能性を判定できることもあるため、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められるとし、この場合には、事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、一定のケースを除いて、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行うとしている。
ただし、上記の規定はあくまでも、市場価格のない株式の実質価額の算定の基礎となる発行会社の財政状態を前提としており(金融商品第285項)、したがって、実質価額として通常のケースについて言及していると考えるべきである。なぜなら、超過収益力等のケースでは、前述したとおり、発行会社の財政状態とは関係なく超過収益力等の毀損の有無に基づいて減損処理の要否を判断するからである。
したがって、会社が子会社株式の減損処理の要否を検討する場合には、通常のケース、超過収益力等のケースのそれぞれいずれのケースに該当するのかを明確に意識した判断・見積りが要求される。
以上、監査経験が長い会計士の方にとっては、至極、当たり前の議論とは思われますが、経験の浅い方にとっては、財政状態の悪化、1株当たりの純資産額あるいは超過収益力等といったものを明確に意識したうえで、市場価格のない株式の減損処理について検討して頂きたいと思います。